2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

村上春樹『海辺のカフカ 下』

宇宙そのものが巨大なクロネコ宅急便 「いいか、ホシノちゃん。すべての物体は移動の途中にあるんだ。 地球も時間も概念も、愛も生命も信念も、正義も悪も、すべてのものごとは液状的で過渡的なものだ。 ひとつの場所にひとつのフォルムで永遠に留まるものは…

村上春樹『海辺のカフカ 上』

田村カフカ 「田村カフカ?」 「そういう名前なんです」 「不思議な名前だ」 「でもそれが名前なんです」と僕は主張する。 「もちろん君はフランツ・カフカの作品をいくつか読んだことはあるんだろうね?」 僕はうなずく。「『城』と『審判』と『変身』と、…

村上春樹『スプートニクの恋人』

竜巻のような激しい恋 22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。 広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。 それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、 片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした…

村上春樹『ノルウェイの森 下』

押しつけたり押しつけられたり 「でもこの前の日曜日ね、私すごくホッとしたのよ。 (中略) あんなにホッとしたの本当に久しぶりだったわよ。 だってみんな私にいろんなものを押しつけるんだもの。 顔をあわせればああだこうだってね。 少なくともあなたは私…

村上春樹『ノルウェイの森 上』

不完全な容器 結局のところ――と僕は思う―― 文章という不完全な容器に盛ることができるのは 不完全な記憶や不完全な想いでしかないのだ。 (村上春樹『ノルウェイの森 上』p.20より) 東京についてやるべきこと 東京について寮に入り新しい生活を始めたとき、僕…

村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下』

音 音はひとしきりつづいたあとで突然とまった。 一瞬の間があり、そのあとに何千人もの老人があつまって みんなで歯のすきまから息を吸いこんでいるような奇妙なざわめきがあたりに充ちた。 (村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下』p.2…

村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上』

便宜的考え方 たとえば、地球が球状の物体ではなく巨大なコーヒー・テーブルであると考えたところで、 日常生活のレベルでいったいどれほどの不都合があるだろう? もちろんこれはかなり極端な例であって、 何もかもをそんな風に自分勝手に作りかえてしまう…

村上春樹『羊をめぐる冒険 下』

名前をつけなかった理由 「どうしてずっと猫に名前をつけてあげなかったの?」 「どうしてかな?」と僕は言った。 そして羊の紋章入りのライターで煙草に火をつけた。 「きっと名前というものが好きじゃないんだろうね。 僕は僕で、君は君で、我々は我々で、…

村上春樹『羊をめぐる冒険 上』

ガール・フレンドについて 彼女は二十一歳で、ほっそりとした素敵な体と魅力的なほどに完璧な形をした一組の耳を持っていた。 彼女は小さな出版社のアルバイトの校正係であり、耳専門の広告モデルであり、 品の良い内輪だけで構成されたささやかなクラブに属…

村上春樹『1973年のピンボール』

ピンボール・マシンとヒットラーの歩みの共通点 ある種のいかがわしさとともに時代の泡としてこの世に生じた点。 その存在自体よりは進化のスピードによって神話的オーラを獲得した点。 (村上春樹『1973年のピンボール』p.27より) ジェイが45年かけてわかっ…

村上春樹『風の歌を聴け』

デレク・ハートフィールドについて すべての意味で不毛な作家 文章は読み辛い ストーリーは出鱈目 テーマは稚拙 ([ちせつ] 幼稚で未熟な・こと) 文章を武器として闘うことができる数少ない非凡な作家の一人 ヘミングウェイ、フィツジェラルド等の作家に伍し…